魔獣と砂塵のカルネア地方
ケルディオン大陸南西部に位置する地方です。
気候は大陸性であり、全体として温暖ですが、夏冬の寒暖差が大きく、また土地の高低差が大きいことから、南部と北部では大きな差異があります。
平野部においては年間降水量は比較的少ないものの、春から夏にかけては飢餓山脈や永劫山脈からの雪解け水が多くの川となってこの地方を潤しています。
中部の草原地帯にはこの地方最大の国家『フェニクス』を中心として、この風土を生かした生産性の高い農地が開墾されています。
“灰の砂漠”テフラ
地方西部、地方全体のゆうに三分の一をしめる半島を覆う広大な砂漠であり、魔獣の最大の生息域です。
古代魔法文明時代のものと目されている遺跡群「古塔(ことう)」は、未だその全容こそ解明されていませんが、魔獣の誕生と何らかの関わりがあると考えられています。様々な遺物から、この砂漠は古代には豊かな緑に恵まれた土地であったことが判明しています。魔獣のはびこるこの土地にも、辛うじて人族の暮らす集落が点在しています。
飢餓山脈
地方北西部に位置し、テフラ砂漠を離れた魔獣が数多く生息しています。魔動機文明時代には多くの鉱山が存在しましたが、現在は魔獣による襲撃によりすべて放棄されてしまいました。
現在、カルネア地方において鉱物資源の獲得は、鉱石を喰らい体内の炉で溶かして蓄える魔獣を狩ることによって行われています。ただし、それにより獲得できる鉱物資源の種類はまちまちであり、供給の不安定さから、飢餓山脈における鉱山の復活が計画されています。
飢餓山脈の一部は活火山でもあり、立ち上る噴煙はアタナシアからも見ることが出来ます。
爪牙の森
飢餓山脈の麓に広がる広大な樹海です。魔獣と戦いながらも一部の人族が辛うじて生存しており、人族との共存を選んだ一部の蛮族が隠棲するようにこの森で暮らしていることもあります。
“夜見の砂漠”シェオル
大破局後に起こった最初の“魔獣の氾濫(スタンピード)”直後に確認された新たな「砂漠」です。
魔域の出現が時折観測されており、それが魔獣の氾濫と何らかの関係性があるのではないかとも言われています。魔域の増加と共に魔獣の氾濫の周期が縮まるという法則が見られますが、詳細は不明です。
300年の間に迅速な拡大を続けるこの砂漠は、テフラ砂漠を置いてカルネア地方最大の癌とも言われています。
永劫山脈
カルネア地方北東部に広がる広大な山脈地帯です。
魔獣の生息数は他地域に比べれば疎らですが、あまりに寒冷なことから資源に乏しいこともあり、住人は人族蛮族含めてほとんどいません。神紀文明時代の遺物が発見されることが度々あり、神性生物アストレイドが眠っている遺跡が未だ存在するという噂がまことしやかに囁かれています。急峻な峰々の高地は永久凍土で構成され、奥地に存在する氷河には特殊な魔獣が棲息しています。
王家の丘
地方の平野部の最北に位置する丘陵地帯です。「王家の丘」と呼ばれていますが、そもそも一代限りの王しか戴かないフェニクスの「王」のことではありません。ここにはこの地にかつて存在した国々を治めた数多くの王の残した遺跡が存在しています。古いものでは魔法文明時代、新しいものでは魔動機文明時代のものがあり、まだまだ未発見の遺跡も存在するようです。墳墓のみならず、何らかの施設の遺跡が見つかることもあり、魔獣の危険の高い「古塔」遺跡群に匹敵する量の依頼がアタナシアの冒険者の宿には届けられています。
魔獣(テール)
魔「獣」と呼ばれていますが、幻獣とはまったく別個のものです。
そもそも「獣」という範疇にすら含まれない姿形をしていることもあります。この地方に残っているもっとも古い記録で、2500年以上前から定期的に「氾濫(スタンピード)」と呼ばれる大増殖を起こし、甚大な被害を出して来たことが判明しています。
古代魔法文明時代、既に名前も忘れ去られた魔法王の行った実験がその発生に関与しているのではないかとの推測が立てられていますが、さだかではありません。この魔獣が生息域を拡大すると同時に、カルネアの砂漠化も進行していることが判明しています。テフラ砂漠とシェオル砂漠には、かつて肥沃な大地であり、多くの人々が暮らした地帯であっただろうことをうかがえる遺跡が数多く残されています。
魔獣は様々な形態を持ちますが、「種」として成立しているものもあれば、「唯一の存在」としてその個体しか存在しないものもあります。
分類としては現在、「魔神」「幻獣」「動物」「アンデッド」「魔法生物」に属する魔獣が確認されています。言語を解する者も存在しますが、意思の疎通は完全に不可能で、その常軌を逸した思考に触れたことで精神を病む者もいると言います。いずれも、魔獣以外の生命に対する異常なまでの憎悪、殺害衝動に従って行動するという性質ゆえに、人蛮問わず数多くの被害者を出しています。
ただし、その外皮(毛皮、甲殻等様々)や血液、肉、内臓や骨の一片に至るまで、すべて一級の魔術的素材であり、他地方では高額で取引されています。
知性が高く狂暴で厄介な獲物ではあるものの、この国では魔獣被害を抑えることと外貨の獲得を兼ねて魔獣狩りが積極的に行われているのです。
“不死鳥の国”フェニクス
カルネア地方最大の都市連合国家です。
大破局後、魔獣の氾濫に対抗するために作られた“不死鳥連盟(フェニクス)”が元となっています。
終身制の名誉職である「王」を国家元首として戴きますが、実権は元老院の握る共和政の国家であり、その仕組み上、貴族というものは存在しません。しかし、「魔獣(テール)」への対抗という国家の理念上、一代限りの名誉階級「不死鳥の狩人」というものが存在しています。
「不死鳥の狩人」は「不死鳥(フェニクス)」と共に魔獣を狩る者を意味し、他国における貴族と同等もしくはそれ以上の敬意を払われる対象です。更なる国家の発展を意図して、国から領地として荘園を貸与されることもあります(一代限りの身分であるため、死後はその荘園も国に返却されますが、名高き狩人であれば、別の狩人の手に渡ったのちも、その荘園には元の持ち主の名前が冠され続けることがあります)
国土の砂漠化に伴う農業用水の確保のため、灌漑技術を再興・発展させてきましたが、それも魔獣の手によって阻まれることがしばしばです。魔獣への対抗の為には、「強く」、ヒトを守る者であればその出自を問わないこともあり、ナイトメアや、ヒトと共に歩む者であれば蛮族への抵抗感も大きくはありません。
“久遠の都”アタナシア
フェニクスの首都です。港を通じた貿易が盛んであり、地方最大の都市となっています。
石造りの街並みは堅牢で、簡素だが重厚な作りの建物が立ち並んでいます。古代魔法文明時代に作られたと見られるこの都は、幾度となく戦火や災害により放棄されてきたものが、時代を経て再興されたため、「久遠の都」の名で呼ばれています。
マリナの町
地方中部に位置する、フェニクス第二の都市です。
魔動機文明時代に築かれた町を基礎とし、国内唯一の鉄道の終着駅となっています。
鉄道はここ十年ほどで再建されたばかりであり、永劫山脈の麓からシェオル砂漠に沿って他地方へと続いています。国内の鉄道網は貧弱であり、首都アタナシアへは街道を辿るほかないこともあり、鉄道を通じた交易・旅客の行き来・運搬能力においては地方第一を誇ります。
魔動機文明時代に発展したこの町は複雑に入り組んでおり、町全体が一つの魔動機であるかのような仕組みになっています。しかし魔動機文明の滅亡と共に町の防衛機構を正常に稼働させる仕組みが失われた為、フェニクスは古代の遺跡として堅牢な城壁を備えるアタナシアを首都とすることとなりました。
近年、ようやくマリナの町の都市機構をつかさどる魔動機の実態が解明されつつあり、住民も増加傾向にあります。ただし、防衛機構が不完全で、頼り切れるものではない以上は、首都から派遣された兵士や、町で雇う傭兵や冒険者に頼ることも多いようです。
黄金の森
アタナシアの東側を囲む豊かな森です。エルフやメリア、リカントなどの集落が点在しており、最奥には幻獣が棲息しています。魔獣の侵入は少ないものの、それでも討伐依頼が舞い込むことがあるのは、この地方における魔獣の脅威の現れなのでしょう。
国名の元となった「不死鳥連盟」の由来たる「フェニクス」という魔物は、人々と共に魔獣を狩ったと言われており、現在もこの広大な森の何処かで静かに暮らしていると言われています。
フェニクスのひとびと
魔獣との戦いに明け暮れるこの大地においては、「強さ」が人物評価の中でも特に大切なものとされています。魔獣を倒す力強さ、説得力のある話し方、絶望し投げやりになることなく問題に取り組む精神力、冷静な観察眼。肉体面のみならず、精神的、思考面におけるものも、「強さ」と呼ぶことができるでしょう。また、本人の力のみならず、「仲間の助力を得られる」という“連携の強さ”もまた、尊いものとされます。強大な魔獣にたった一人で対抗できるものなど、そう多くはないからです。
必ずしもフェニクスの住人の全てが魔獣と対峙するわけではありませんが、魔獣とヒトのありかたは、この国の人々の死生観や価値観に強く結びついています。フェニクスのひとびとは、魔獣に脅かされる現実を受け止めつつも生を謳歌します。フェニクスのひとびと……特にアタナシアの市民は、円形闘技場での剣闘士の戦いに熱狂します。
第二の都市マリナでも、小規模でこそありますが各種の試合場が設けられ、人気を呼んでいます。もちろん、職業で「闘いを見せる」ものもいますが、現役の兵士や、腕自慢の傭兵、或いは魔獣狩りで腕を磨いた冒険者が競ってその力を見せることもあります。短絡的な考え方ではありますが、これもまた、フェニクスのひとびとが好む「強さ」であるのかもしれません。
フェニクスの繁栄は、魔獣の増加とそれによる砂漠化の進行そのものと表裏一体です。気候が変動しているわけではないこと、永劫山脈からの雪解け水が豊富なことから、基本的には水に困っているわけではありません。砂漠化は、魔獣による環境破壊で、その土地の植生が消失し保水力を失うことから始まるからです。水の失われゆく大地ではありますが、特に都市部の住民は大の風呂好きです。過密な都市事情から決して各戸に風呂を備えられるほど裕福な住民は多くないのですが、そのかわり町中に公衆浴場が存在します。それらの公衆浴場は古代のものをベースとし、“不死鳥の狩人”や、元老院議員からの寄付で再建されたものが多くあります。
テールの砦
魔獣(テール)はその外皮(毛皮、甲殻等様々)や血液、肉、内臓や骨の一片に至るまで、魔術的な素材として高額で取引されています。しかし、冒険者が報酬として得られる「戦利品」がその内のほんの一部なのは、何故でしょうか?
それは、魔獣の解体と素材の採取を完全に行おうとすると、専門的な知識と熟練の技が必要となるからです。
冒険者たちが狩った魔獣の解体を行うのは、「テール(魔獣)の砦」と呼ばれるギルドです。テールの砦の歴史はフェニクス建国時に遡ります。彼らは魔獣の解体及び、魔獣に関する様々な研究を行ってきた組織です。彼らはありとあらゆる種類の魔獣を的確に解体し、その肉体から得られる素材を損なうことなく採取します。
テールの砦がそうして得た素材は研究対象となることもありますが、多くは売却され、或いは冒険者たちの装備の強化に、或いは外貨の獲得のため諸外国への輸出に回されます。
その結果得られた資金は、魔獣による被害者の救済金にあてられたり、魔獣除けに村落の防壁の強化、街道の見回りの強化にあてられたりします。また、魔獣と戦った冒険者の治療・蘇生や、彼らの消耗品負担の軽減などに使われることもあります。